77 きつねの嫁どり

77 きつねの嫁どり


 昔、まだ石川の谷ツに電灯のつかなかった頃のことです。遠く東京の空にはネオンが明るくとてもきれいにうつって見えることがありました。大和村に電灯がついたのは大正六年のことでしたから、とても珍らしくて「あれが東京だべ」と空を眺めたものでした。

 その頃、「きつねの火が通るでみろや、みろや」といわれて貯水池の方向をみると、丘陵の尾根をポーッと赤い火がついたり消えたり、いくつもいくつも並んで動いていることがあったそうです。まるで嫁どりの時のちょうちん行列が歩いてくるように見えるのです。そしてふッと消えてしまうというのです。こんな現象を村の人は「きつねの嫁どり」とか「きつねの行列」といっていました。山の尾根や原などによく見られました。
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